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| ○ 新メニュー。 |
私が担当した当時、フードメニューは約30種。 ほとんどが串メニューでした。 仕込みの手間を考えると、限界に近いと思われました。 しかし、売上は減少傾向、店内の士気は低い環境では、やはり、新メニューが必要だと思われました。 新メニューの効果について、私は2つあると考えました。 一つはもちろん、客に対しての訴求力。 もう一つは、スタッフに対しての訴求力です。 私は前者よりも、むしろ、後者の効果に期待しました。 店では、それまで何年もメニューの追加はありませんでした。 そればかりか、売上が減少しているときに、原価率の悪さを理由にメニューの削減を強制されることが度々あったようでした。 このような環境に疲弊し、やる気をなくしていた彼らに新メニューを開発する機会を与え、活性化を図れればと考えたのです。 そして実践です。 まずはドリンクから手をつけました。 信じられないことに、当時のメニューには、女性向けのアルコール類は梅酒とレモンハイしかありませんでした。 理由を聞くと、社長が女性客は滞在時間が長いばっかりで金を遣わないから要らない、女性客はレモンハイでも飲んでいればいいんだ、などと公言しており、女性向けメニューを許さないということです。 私は呆れました。 ひと昔前ならいざ知らず、今は女性が縄のれんを平気でくぐる時代です。 "おしゃれな"店でなくても、女性客を意識せずにはやっていけません。 おいしい店を探して彷徨している女性客を取り込めば、彼女達に連れられて、あるいは女性客を目当てに男性客が来て、その男性客が他の男性客を連れてくる、そんなループが現代の飲食ビジネスにはあるように私は思っています。 ひと昔前ならば、男性客が店を開拓し、女性客を連れてくるものでしたが、女性の社会進出と、情報と情報伝達手段の飛躍的増大が女性の行動力を飛躍的に高め、飲食の分野においては前述のような現象が起こっているように思われます。 私の担当していた店舗は、"おしゃれな"店とは程遠いものではありましたが、味、接客サービスのレベルを考えれば、必ず女性客にも受けるという確信がありました。 女性客は必ずしも内装だけに引き寄せられてくるものではありません。 現代の女性客は、まあ、オヤジ化しているのもあるでしょうが、本当においしい店ならば、内装や流行など関係なしに行く傾向があります。 しかし、彼女たちが飲めるようなアルコールがなければ、なかなか心を掴むのは難しいと、私は見ていました。 スタッフも異口同音に、女性が飲めるアルコールがないから、なかなか女性が来たがらないといいます。 カップル客が来ても、男性客に比べて滞在時間が短かったり、あるいは注文の傾向から、彼らはそう読んでいるようでした。 問題点が明らかになった以上、後はどう改革するかです。 酒販メーカーの担当者に聞いてみると、レモンハイをウォッカベースのプレーンサワーに変えれば、シロップなどのフレーバーを変えるだけで何種類ものメニューを提供することが出来ると、提案を受けました。 ただし、20円ほどのコストアップ。 嫌な予感を抱きながら、それでも原価率を調整し、在庫負担についても言及した提案資料を準備して、社長との交渉に臨みました。 20分以上もかかったその交渉は、最初からヒートアップした社長のお陰で、すぐに怒鳴り合いに限りなく近いものになりました。 クビを完全に覚悟しながら(この程度のことでクビになるのもおかしな話ではありますが)、私はメニュー更新を強硬に主張し、不毛な言い争いに疲労した社長が、勝手にしろと投げつけた言葉を言質にして、半ば強引にメニューに投入しました。 結果は、言うまでもありませんが、女性客の増加につながりました。 まず、カップル客の増加というかたちで現れ始め、次に女性同士の来店が目に付き始めました。 来店数は増加し、社長が懸念していた客単価の低下はごくわずかにとどまりました。 女性向けメニューの投入により、女性を連れて来やすくなった男性客がカップルとして来店し、満足した女性客が女性同士で来店して他の女性客に店を紹介し、その女性客が男性客を連れてきて、という来店客のループが出来ていたように思われました。 当初の思惑からはやや外れましたが、女性客がつなぐループができ、来店客の増加につながったものと見られましたので、メニュー投入は成功といえました。 このことで、新しいマネージャーはヤル、というところを見せておいて、いよいよ、本丸ともいえるフードの新メニュー開発にとりかかりました。 いきなり新メニューを開発しろといっても、抑え付けによって発想力の麻痺した彼らは、なかなか動くものではありませんでした。 そこで率先垂範とばかり、自分で考えた試作メニューを作って、仕込み中のスタッフに食べさせて評価してもらうことを何度かやりました。 ムーブメントを自ら作ることで、今一つ消極的なスタッフをメニュー開発というムーブメントの渦に巻き込もうと考えたのです。 試作メニューの結果は・・・ 散々な評判に終わりました。(泣) でも、これで彼らの探求心に火が付きました。 思惑通り、ムーブメントを作ることには成功したのです。 アイディアがいくつか上がってきました。 ミニトマトを使ったもの。 野菜串の改良。 海鮮ものの投入。 廃止したメニューの復活。 提案した彼らに対して私は、必ず原価計算をするように求め、原価率が適正であることを確認し、試食して納得したものについては承認し、メニュー化していこうとしました。 メニューブックに載せる前には当然、社長とのバトルが待っていました。(笑) 最初のバトルほどひどくはなかったにしても、毎度毎度のバトルは結構大変ではありました。 すでに月売上は2店舗で前年比20%以上、金額にして100万円増という数字を出してはいましたが、それゆえにか、社長は私に対して対抗意識剥き出しで、意見交換というよりは怒鳴り声の応酬というのが、その当時の日常でした。 フードメニューの追加提案にも、当然、いい顔はしませんでした。 すぐに怒鳴り合いのような交渉になりましたが、最後には根負けした社長が渋々認めるというのが常でした。 しかし、精神的に疲労した交渉の中で、社長がメニューを削減した意図をふと漏らすことがありました。 売上が減少していく中、原価率は上昇していく。 ロスが多いと考えた社長はメニューのバラエティを減らして原価率を下げようと図ったようです。 それはそれで正しい考えなのですが、当時の状況を見ると、逆に拡大に転じるべき時であると、私には思えたのです。 縮小均衡を取るか、拡大均衡を取るかという命題は、飲食ならずとも、事業を行うものに突き付けられる命題ですが、事業体にポテンシャル、すなわち伸びしろがあるなら、拡大均衡を取るほうが正しいことが多いと考えます。 私自身、前職の多目的ホールのスタッフのときは、利用料や料飲価格の引き下げ、という縮小均衡策を取って事業を立て直した経験がありますが、そのときは、ホールの相対的な魅力度、提供する料飲のグレードと期待されるグレードのギャップなどを考えた結果、価格引き下げによる縮小均衡が効果的であると考えたからです。 その後、ホールの利用率が劇的に上がり、売上増を達成することが出来ました。 これは料金引き下げによって相対的魅力を向上させ、一時的に縮小均衡を図ることによって後のジャンプアップにつながったたものです。 この焼き鳥店の場合は、味、サービスはすでに高水準にあり、3,500円という客単価に対して十二分にリーズナブルであると思われたので、価格引き下げなどは端から考えもしませんでした。 メニュー削減も、いたずらに魅力を失うだけであると思われました。 逆に、メニュー追加によって魅力度を向上すれば、来店客に対して消費意欲を刺激して売上増が期待できるという見通しがありました。 新メニューを導入するとき、頭においておかなければならないのは、既存メニューをおろそかにしてはいけないということです。 既存メニュー、特に看板メニューがあることでお客様は来店するのであって、新メニュー目当てに来店するのではないということです。 女性客に完全にフォーカスした店など、手を変え、品を変え、といった感じでコロコロとメニューを変えるところが散見されますが、そんなやり方が長く続くはずもありませんし、それで店を保たそうと考えれば、必然的に新規客に頼るようになり、常に相当額の広告宣伝費を掛けなければならなくなります。 そうなると食材原価や人件費にしわ寄せが来ることになり、いい店とはいえなくなってくると私は考えます。 やはり、いいものを出して、しっかりしたサービスを行い、常連客が新しいお客を連れてきて、そのお客がまた新しい常連客になる、そんなサイクルのほうが、個人店や中小規模のチェーン店にはよいと考えますし、当時担当していた店にはふさわしいと考えました。 従って、そのような考え方によれば、新メニューは常連客に向けての刺激であり、数品目で十分ということになります。 この店の場合も、ある程度売上のあった2店舗については、既存メニューは結局、一品も落とすことなく、数点の新メニューを追加するにとどまりました。 しかしながら、売上が上がらず苦しんでいた1店舗については、店長と相談し、積極的にメニューを追加していくことにしました。 やはり、客が定着しないときは、刺激策として新メニューを投入することになります。 それでも既存メニューは落とすことはせず、追加した新メニューと合わせ、40品目程度を毎日仕込むことになりました。 串物なので、全て仕込みの段階で製品化しなければなりません。 スタッフは大変だったでしょうが、文句を言いながらでもやっていました。 新メニューの仕込みについては注文をつけました。 どうしても新メニューには思い入れがあるのか、多めに仕込む傾向があると感じた私は、営業中に品切れを出してもかまわないから少なめに仕込むようにいいました。 売れ残った品のほとんどは翌日の営業に回されます。 お客様は鮮度の低いものを食べさせられることになり、そうなると食味の低下から客足が遠のくことになります。 できる限り当日仕込みの物を食べてもらったほうがいいのは明らかなことであるので、売上を少しでも上げるためには品切れを起こさないほうがいいと言って渋る店長に何度もそれを説明しました。 私は、品切れは起こしてもかまわないし、戦略上、そうしたほうがいいとさえ思っています。 品切れと言われたとき、客はどう考えるでしょうか。 そのまま諦めてしまうでしょうか。 それが強い興味を引くものであればあるほど、近いうちに再度来て、食べられなかったそのメニューを試してみようと思うのが人の心理ではないかと、私はそう考えます。 もちろん、高い水準の料理を出す店でないとその論理は成り立ちません。 客単価の高い焼き鳥店であったがゆえに、来店客の食への関心も高く、その店ではこの論理が通用すると私は考えました。 それを何度も説明し、理解を求めていきました。 最初は反発していた店長はじめスタッフもだんだんと納得していったようです。 そんなスタッフの努力の甲斐あって、徐々に売上も上がり、やがて他の2店舗に追いつくまでになりました。 ドリンクについてもいろいろと改革を行いました。 まず、着目したのはワインです。 当時は"でもしか"という印象の安いワインしか置いていませんでした。 客として入ったとき、試しに飲んでみて、まずさにびっくりしました。 これではいけないと思い、銘柄を変えることにしました。 何種類ものワインを飲んだ末に、価格と味のバランスのよいイタリアワインに決め、メニューブック更新の際に切り替えました。 すると今度は、スタッフから声が上がってきました。 焼酎については、これまでは決まった銘柄しか置けなかったのを、新しい銘柄を置きたいというのです。 これについては、私もそうすべきだと思ったので、これまでの銘柄は維持した上で、私が試飲して承認することを条件にいろいろな銘柄を置くことを許しました。 銘柄の選択は店長の裁量に任せました。 普段からあちこちの飲食店を食べ歩き、研究に余念のない店長とスタッフは、バラエティに富んだ選択をしてきました。 店舗ごとに入れている銘柄は異なり、増えた銘柄を説明するのに、各店舗ごとに焼酎・日本酒のサブメニューを作ることになり、これがほとんど毎月のように更新の要求が来る有り様でした。 さて、自分たちの提案が通り、新メニューが追加されて店内POPやメニューとして掲示されるようになると、スタッフのやる気が違ってきました。 店内に活気が満ちてきました。 劇的に売上が上がるということはありませんでしたが、逆に売上のひどく悪い日が少なくなってきました。 新規が増えたという声はあまりなく、どうやら思惑通り、常連客の来店頻度が増えたものと思われました。 やはり常連客も刺激がほしかったのであろうと思われました。 メニューを固定してしまうと、マンネリ化して訴求力は漸減してしまいます。 やはり、ある程度の新メニューの投入によるリフレッシュは不可欠だと思います。 ただし、それはその店の根幹というべき代表メニューの存在があってこその話です。 この店にこれを食べに行く、と客にいわしめるだけのメニューがなければ、客を呼ぶことなんてそもそも不可能なことですから。 それと、全取っ替えのようなことも全く感心しません。 ある程度の入れ替えに留めるべきで、季節感を感じさせるものだと、尚いいと思います。 マネージメントトップページ 飲食ビジネスノウハウ集 |
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